〜主張Bまだまだ開発途上……本当に間に合うの?フリーゲージトレイン〜

―超遅いフリーゲージトレイン―

 フリーゲージトレインは、長崎新幹線への導入が予定されている電車だ(詳細は、「長崎新幹線とは」の「長崎新幹線の特徴」を参照)。下の写真は、1次車で、現在は2次車が実験を行っている。

 フリーゲージトレインは、在来線(1067mm)と新幹線(1435mm)という線路の幅の異なる区間をどちらも走ることができるよう、車輪の幅を変えられる電車である。実際に在来線から新幹線に乗り入れる際には、幅を368mm広げることになる。

 世界では、スペインで既に軌間可変の電車が走っている。こちらは、日本とは違い、標準軌(1435mm)と広軌(1668mm)の間で幅を変える。その差は233mmである。

 それならば、日本のフリーゲージトレインも実現可能では、という意見もあるだろう。だが、動かす幅は、スペインの1.5倍以上である。スペイン以外にも、カザフスタン―中国間やモンゴル―中国間でスペインの技術を使った軌間可変の電車が導入されているが、いずれも動かす幅は85〜89mm程で、日本の場合に比べてかなり小さい。事実、1次車の実験結果によれば、軌間の変換に1両あたり1分を要したという。6両編成だと6分かかることになる。つまり、これが現在安全に走れると確認された軌間変換の実態である。その他にも複雑な機構を備えるので、台車がどうしても重くなり、線路設備に影響を与えるなどの問題点が指摘されている。

 また、日本はスペインに比べると平坦地が少なく、山が多いため、急なカーブが多い。スペインの技術をそのまま使うわけにも行かないし、カーブをスムーズに曲がるには、様々な装置をつける必要が出てくる。しかも、先述したように重量があるため、カーブにおける線路の負担は大きなものになる。

   さらに、現段階で安全に走れる最高速度が200km/hであり、新幹線の資格とも言える「安全性」「速達性」が疑問視されている。国やJR九州、佐賀県などは、「270km/hでの走行を目指す」と主張しているが、これはあくまでもそう言っているだけで、現段階でその速度で走り、営業運転でも充分に安全であると確認されたわけではないし、現在試験中の2次車がどれだけの成果を残せるかは未知数である。

 以上の点から、日本におけるフリーゲージトレインの実用化は、他に比べて技術的に難しいと言えるのではないだろうか。

―フリーゲージトレインとN700系を所要時間で比較―

 また、佐賀県は「フリーゲージトレインを導入すれば、JR西日本の山陽新幹線を経由して新大阪駅まで乗り換えなしで行けるようになる」と言う。確かにそれは便利だろうが、私がJR西日本に取材したところ、「そのような話は一切聞いていない」という返事があった。つまり、未だに会合が持たれていないのだ。

 一方、佐賀県は、そのように言う根拠として「鹿児島新幹線と山陽新幹線の乗り入れ決定」を挙げている。だが、全線フル規格で駅にはホームドア、最高時速も「のぞみ」や「ひかり」とそう変わらない鹿児島新幹線と、踏切事故の危険性がある在来線を走り、無人駅も通過し、最高時速が現在200km/hとなっている長崎新幹線を「同一視」するのは、あまりにも条件が違いすぎ、誤解を招くものだ。

 では、実際に博多―新大阪間の所要時間をフリーゲージトレインとN700系「のぞみ」の最高時速をもとに比較してみよう。なお、停車駅は共通とする。博多―新大阪間は約600kmなので、単純に計算すれば、最高時速200kmのフリーゲージトレインでは3時間、駅での停車を考えると、3時間30分ほどかかると思われる。一方、N700系「のぞみ」は最高時速300kmなので、2時間ほどで走破する。ただ、常に300km/h運転をしているわけではなく、停車駅もあるので、実際には2時間30分ほどかかっている。だが、フリーゲージトレインとはそれでも1時間の開きがある。

 さらに、足が遅いということは、途中で後続の「のぞみ」や「ひかり」に抜かれることを意味する。仮に途中2つの駅で追い越された場合、ダイヤを上手く組んだとしても、新大阪到着はさらに15〜20分程度遅くなる。そのため、現実にはN700系「のぞみ」よりも1時間15〜20分程度遅くなるのではないだろうか。長崎新幹線の博多―長崎間の時間短縮効果は現行に比べて28分であり、せっかくの時間短縮もフリーゲージトレインで新大阪まで行くと無意味になる。それどころか、途中で「のぞみ」に乗り換えた方が早いのだ。そもそも、40年以上前に登場した初代・0系よりも遅い新幹線が、本当に新幹線と呼べるかどうかでさえ疑問である。

 同じJRでも今のフリーゲージトレインの性能を疑問視するところがある。JR東日本だ。福島県の「福島県鉄道活性化対策協議会」が、2006年(平成18年)10月にフリーゲージトレインの在来線導入をJR東日本に要望したところ、同社は「フリーゲージトレインの安全性、速達性を考えると、実用化の段階にはないと思われる」と回答している。JR東日本は、「新幹線」とは何か、ということをよく理解していると言えるだろう。

―新鳥栖駅で乗り換えをすれば、フリーゲージトレインよりも早く着ける!―

 フリーゲージトレインのような技術的確証のない怪しい電車に乗るより、佐賀・長崎両県からもっと早く新大阪駅に着ける方法はないのだろうか。正式には決まっていないが、一つだけある。新鳥栖駅で長崎本線から鹿児島新幹線に乗り換え、そのまま新大阪駅に向かうという方法だ。

 新鳥栖駅は、長崎本線と交差するところに建てられているが、在来線にホームを設置する計画は発表されていない。だが、鳥栖市は在来線ホームの設置に意欲的であり、屋内連絡で新幹線駅舎と連結したい、といった構想も練っているようだ。実際に鹿児島新幹線が開業すると、新鳥栖駅で在来線から新幹線に乗り換えて広島や新大阪に行く方が早いのは確実である。在来線ホームが設置された場合、多くの利用客はこの方法で新大阪方面へ行くだろう。後からフリーゲージトレインが出てきたところで、そのまま乗って新大阪駅に向かう人はどれだけいるだろうか。

 また、博多に行くにしても、2011年(平成23年)の鹿児島新幹線全通後は、在来線特急「リレーつばめ」や「有明」の廃止により、鹿児島本線の過密ダイヤが大幅に緩和されると考えられ、「かもめ」のスピードアップが見込める。さらに、「かもめ」を新型車に統一すれば、平均所要時間の短縮もできるだろう。在来線の改良だけで、長崎新幹線の時間短縮に匹敵する効果を得ることができるのだ。

文中参考: 

フリーゲージトレイン:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)・軌間可変電車』
(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%B2%E3%83%BC%E3%82%B8%E3%83%88%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%83%B3)

スペインの軌間可変電車:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)・アルヴィア』
(http://ja.wikipedia.org/wiki/Alvia)

福島県鉄道活性化対策協議会:公式サイト(http://www.pref.fukushima.jp/koutuu/index.html)

新鳥栖駅に在来線:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)・新鳥栖駅』
(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%B0%E9%B3%A5%E6%A0%96%E9%A7%85)

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