青春18きっぷで行く、さよなら餘部鉄橋惜別旅行C

明治の奇蹟、餘部鉄橋。2007年(平成19年)春から老朽化や列車のさらなる定時運行を目指すために架け替え工事が始まり、着工から1世紀近くに及ぶ歴史に幕を下ろします。私は、2006年(平成18年)春に続き、最後の訪問として、冬の餘部鉄橋に向かいました。

 米子駅の車両基地には、EF64形が休んでいたが、車体のあちこちに雪が付着していて、その周りはレールも見えないほどに真っ白だった。

   米子駅では少し時間があるので、日付印を入れてもらうために途中下車しようと、改札口に向かっていたとき、伯耆大山方面から285系「サンライズ出雲」が入線した。

   「サンライズ出雲」は、車内に乗っている人の様子を見る限り、年末ということもあろうが、かなり乗車率が良さそうだった。これが、九州行き寝台特急にも投入されたら、需要が増えるだろうし、特急中心のJR九州内でも他の列車の邪魔にならずに済むのに・・・と思った。「サンライズ出雲」は、わずかの停車の後に、「キュイーン」という静かな音を立てながら、米子駅を発車した。

 その後、途中下車して、自宅に電話をしたり、朝食を買ったりした。もう少し時間があれば、駅前散策もしたいところだが、そこまで時間がないし、駅構内に停車している車両も撮影したかったので、用事を済ませるとホームに戻った。ちょうど0番乗り場には、キハ40形ゲゲゲの鬼太郎列車が停車していた。

 これは、ゲゲゲの鬼太郎の作者である水木しげる氏の出身地が鳥取県境港市であるためで、それにちなんで米子と境港を結ぶ境線に、ゲゲゲの鬼太郎に登場するキャラクターを描いた列車を走らせているのだ。境線用のホームは、先述したように0番乗り場であるが、これも「霊(0)番乗り場」と呼ばれている。また境線の駅にも、一つ一つに妖怪の名前が付けられていて、始発駅である米子駅は、あの「ねずみ男駅」の愛称がある。なので、米子駅ホームにはこのようなオブジェも。

 

 さらに、駅売店は「妖怪ワールド ねずみ男売店」とあり、ゲゲゲの鬼太郎に直接関係ないお土産品も含めて、様々な物が売られていた。私も早速中を覘いてみた。中にいたのは、ねずみ男・・・ではなく、普通のおじさんだった。この人は、「キヨスク」の社員らしいが、おそらくねずみ男に“業務委託”されているものと思われる。入り口には、「ねずみ男汁」などといった、怪しげな缶飲料が置かれていた。1本120円という通常のジュースと変わらない安さだったので、お土産用に2本買うことにした。

おじさん:はい、240円です。これはですね、ここに書いている通り、ゆずやはっさくのジュースになっておりますので、飲んでも大丈夫ですよ。

 なるほど、缶側面の下に味が書いてあった。確かに見た目が非常に怪しいので、こうした説明がないと不安である。カウンターのそばには、「目玉のおやじの妖怪列車」というキーホルダーが売られていたので、それも買うことにした。カウンターで会計をしようとおじさんに商品を提示したところ、

おじさん:お客さん、さすがお目が高い!これは、マニアの方に大変人気のある商品でございます。はい、630円ですね。おおきに!

 とても商売の上手そうな方だった。「お目が高い!」には驚いたが、鉄道ファンに人気がある商品というのもうなずける。しかも、模型が古そうな車両だから、余計そうなのだろう。

 買い物を済ませると、跨線橋を渡って、次の倉吉行きが発車する4番乗り場に向かった。倉吉行きは、キハ121形ワンマンだった。

 列車に乗る前に、車両基地に停まっている車両を撮影した。雪の降り方が強くなり、暗くなってきたので撮影がしにくかったが、何とか撮れた。先ほどとは別のEF64形は、屋根全体に雪が積もっていた。おそらく、昨日から止まっているのだろう。

 少し離れた場所には、国鉄色のキハ58形が止まっていたが、こちらは最近ほとんど動いていない様子で、先ほどのEF64形以上に雪が積もっていた。

 雪がひどくなってきて、さらにはホームにいても雪がどんどん服に付着してきたので、キハ121形車内から撮影することにした。

 さっきは気がつかなかったが、車両基地の奥には除雪車も待機していた(ホーム柱の後ろ)。

 先行する特急列車が遅れたため、倉吉行きは8分ほど遅れて9:35に米子駅を発車した。雪はいつのまにかやんでいた。

 朝食を食べた後、先ほどのおばさんからいただいたみかんを1個食べた。

 「味は(口に合うか)分からないけれど・・・」とおばさんは言っていたが、程よい甘酸っぱさでむしろおいしかった。3個いっぺんには、お腹を壊してしまうので、残りの2個は後で食べることにした。

 ふと運賃表示機を見ると、次の停車駅を示すためのLED表示のところで、何やら宣伝を行っていた。読んでみると、何と寝台特急「サンライズ出雲」を使った割引きっぷの宣伝を行っているではないか。まさか運賃表示機の停車駅案内のところで、このような宣伝とは・・・。呆れているのではない。驚いていると同時に嬉しいのだ。九州では、福岡都市圏を走る813系でもこんなことはしない。これには、鳥取県から東京に行くのが不便であり、寝台特急を頼らざるを得ないという状況にあることが理由として考えられるが、それだとしても、「北斗星」や「カシオペア」、「トワイライトエクスプレス」といった、必ずしも「乗ること」に価値を置かない寝台特急をワンマン列車で宣伝するのは、聞いたことがない。これは、寝台特急の明日を作り出す、素晴らしい取り組みとして評価すべきであろう。

 列車は雪景色の中をさらに進んで行く。

 10:25、「浦安駅」に到着した。

 「浦安」と聞けば、ディズニーランドがあり、某ギャグ漫画ではタイトル名にもなっている千葉県浦安市を思い浮かべてしまう。JRではないが、浦安市にも「浦安駅」がある。一方、こちらは鳥取県の田舎にあるJR山陰本線の「浦安駅」。大都会の浦安駅と田舎の浦安駅。何かの縁を感じてならない。

 列車は終点の倉吉駅に6分ほど遅れて到着した。駅舎側のホームには、智頭急行所属のHOT7000系特急「スーパーはくと」が発車を待っていた。列車のドアが開くと、乗り換える乗客たちが、転ばない程度の急ぎ足で跨線橋に直行していた。一方、私は「スーパーはくと」には乗らないので、編成写真の撮影に向かった。私が智頭急行の車両を撮影するのは初めてである。  

 その後、私は途中下車して倉吉駅の駅舎を撮影した。駅の垂れ幕でも、「サンライズ出雲」を使った東京往復割引きっぷの宣伝が行われていた。

 寒かったし、既に次の鳥取行きが入線していたので、すぐにホームに戻った。跨線橋の階段には、このような宣伝が。

 「コナンの里」ということは、あの「名探偵コナン」の作者、青山剛昌氏の出身地と言うことなのだろうか。そういえば、鳥取県出身だと漫画本に書いてあったような・・・。

 次の鳥取行きは、キハ126形2連だった。先ほどのキハ121形の片運転台版である。ちなみに、この鳥取行きが止まっているのは3番乗り場で、ここまで乗ってきたキハ121形の折り返し米子行きも3番乗り場からの発車となっているという複雑な方式が取られており、駅のアナウンスでも列車停車位置の案内が何度も行われていた。

 列車は、定刻の11:14から少し遅れて倉吉駅を発車した。しばらく行くと、左手に日本海が広がるようになった。しかし、かなり荒れている。すぐ目の前が海の餘部鉄橋を渡る列車が、果たして運行されているのかどうか不安になった。

 鳥取駅には、やはり数分遅れて到着した。それと同時に、私は、仙崎支線を含めて、日本一長い鉄道線である山陰本線の全線制覇を完了したのだった。鳥取以東は、今年の4月に制覇していたし、米子以西は2004年(平成16年)以降に区間を区切りながら地道に乗り潰していった。それだけに、この制覇は感無量だった。

 帰省ラッシュの鳥取駅のホームは、やや混雑しており、地元テレビ局が取材をしていた。ちょうど、智頭急行直通のHOT3500形が発車を待っていたので、テレビカメラを避けるようにして早速撮影した。

 HOT3500形を見送った後、途中下車して駅舎を撮影した。駅前の路上や植え込みには、いくらか雪が積もっていたものの、米子や倉吉ほどではなく、と言うよりも既に融けてしまったようだった。

 さてさて。次は浜坂行きのキハ121形に乗車。いよいよ餘部鉄橋が近づいてきた。浜坂駅で乗り継げば、まもなく餘部駅に到着である。

 車内は既に満席になっていたので、運転席後ろで立つことにした。列車は、12:18に鳥取駅を定刻に発車した。しかし、発車してしばらくすると、運転席に3人いた乗務員の1人から次のような放送が・・・。

乗務員:浜坂より先に向かうお客様にご案内いたします。ただ今、餘部橋梁が基準を超える強風のために、渡られなくなっております。その関係で、浜坂―香住間で列車の運行を見合わせております。大変恐れ入りますが、浜坂より先に向かうお客様は、駅係員の指示に従ってくださいますようお願いいたします。

 予想していたとは言え、私の予定がこれで狂うことは確実になった。行けるところまで行くしかない、と決め、終点の浜坂駅までは予定通り行くことにした。そこから先は、何とかしよう。左手に海が見えてきたが、先ほど以上に大荒れになっていた。これで餘部鉄橋を渡るのは、確かに危険である。

 それでも、私は運行再開の放送が流れることを願った。運転席の無線機に、何度も運行指令からの連絡が入っていたからだ。

 しかし、状況は変わらず、先ほどと同じような放送が行われて、終点の浜坂駅に到着した。向かいのホームには、「豊岡⇔浜坂」の幕を表示したキハ47形がエンジンを動かしたまま停車していたが、車内灯が消されていて、ドアも開いていなかった。

 

Dへ 

旅行記&特集へ

トップへ