どうなる!?長崎本線肥前山口―諫早間

三者合意で、JRからの経営分離がなくなった長崎本線肥前山口―諫早間。しかし、問題は山積みです。

肥前七浦駅の駅舎。1933年(昭和8年)に建てられた。

 長崎新幹線の着工には、「地元の調整がつき次第」、つまり、鹿島市と江北町が長崎本線のJRからの経営分離に同意することが必要だった。つまり、両市町が同意しない限り、長崎新幹線は着工できないことになっていた。

 そもそも、なぜ長崎本線肥前山口〜諫早間を経営分離しなければならなかったのだろうか。簡単に言うと、新幹線ができることにより並行する在来線の輸送量が減少し、JRによる経営が困難になるから、というものだった。既にこのような理由で経営分離された鉄道は全国に4路線(東北本線⇒青い森鉄道、IGRいわて銀河鉄道<以上東北新幹線関連>、信越本線⇒しなの鉄道<長野新幹線関連>、鹿児島本線⇒肥薩おれんじ鉄道<九州(鹿児島)新幹線関連>)がある。

 だが、どの路線も苦しい経営を強いられており、肥薩おれんじ鉄道は、熊本県の試算では開業9年目までは黒字だったが、初年度で1億3800万円の赤字を生み出してしまった。そのため、鹿島市と江北町は、「長崎本線を引き継いだ路線は後に廃線になり、地域が衰退してしまう」という理由で経営分離に反対していた。

 ところが、2007年(平成19年)12月の佐賀県、長崎県、JR九州による「三者合意」で、「長崎本線肥前山口―諫早間は、新幹線開業後20年間をJRが全線に渡って引き続き運行する」という決定がなされた。これにより、三者は長崎本線沿線自治体の同意が不要だと解釈し、新幹線計画が進むことになった。

 この三者合意では、

@線路や駅舎などの設備は、両県が新幹線開業時に14億円で一括購入する。また、新幹線開業後の同区間は、JR九州が列車を運行し(上)、両県がその設備を維持管理する(下)、「上下分離方式」とする。

A気動車による運行。博多―肥前鹿島間で運行する特急5往復もディーゼルとする。

B普通列車の運行本数は現行通りとする。運賃も、JR区間と同様の扱いにする。

 などといったことが決められた。

 もし、従来の計画通りに経営分離された場合、車両購入費や運行会社設立などの初期投資で合計16.4億円が必要だった。だが、この三者合意で線路や駅舎などの一括購入費14億円のみとなり、両県の負担が2.4億円ほど抑えられたことになる。但し、先述したように維持管理は、両県が継続的に行う。

 維持管理に関する負担は、「長崎2:佐賀1」(内訳:長崎約40億円、佐賀約20億円)という割合が2008年(平成20年)4月に、佐賀・長崎県の協議で決定された。路線長では、佐賀県内の方が長いものの、新幹線の「終着駅効果」や他の公共事業の負担割合を先例に考慮して、長崎県が多く負担することになったのだ(長崎県の金子知事は、佐賀県にとって良い条件になるよう配慮するとの見解を以前から示していた)。

三者合意は、廃線への準備段階?

 新幹線開業後20年間、2008年(平成20年)を基準とするならば、建設期間10年を合わせて今後30年間をJR九州が運行することになった長崎本線。だが、なぜ20年間という“期間限定”なのか、という疑問を抱いている方もいるはずだ。これには、両県が「線路施設などをJR九州から買い取る金額」と、「列車運行における年間赤字額」に一つの理由があると言えるだろう。

 買い取る金額は、先述したように14億円である。また、見込まれる年間の赤字額は1億7000万円、20年間で34億円と見込まれている。このうち、毎年1億円をJR九州が直接補填し、残りの赤字額7000万円を両県が出した14億円でまかなうことになった。14億円を7000万円で割ると、「20」になる。つまり、JR九州は、線路を売って得た14億円を年間7000万円ずつ切り崩しながら、20年間運行するのである(下図)。

 となれば、14億円が尽き果てた開業後20年以降の運行はどうなるのか。JRが引き続き運行する可能性もあるが、運行を打ち切って、「佐賀さん、長崎さん、あとはご自由に」と“経営分離”することもあり得る。このビジョンについては、佐賀県も長崎県もJR九州も明言していないが、佐賀県の広報誌によれば、そのときも佐賀県、長崎県、JR九州の「三者」で話し合うという。つまり、鹿島市や江北町がこの議論に入る余地は、未来永劫ないことになる。これは、30年後に佐賀県や長崎県が「長崎本線はいらない」と判断すれば、鹿島市や江北町の同意がなくても廃線できることを意味する。

 事実、2035年(平成47年)には、佐賀県人口が今よりも2割減って71万2000人になると試算されている。当然今よりも税収が2割減っているはずだ。財政難にあえぐ未来の佐賀県や長崎県が、JRの見捨てた後の長崎本線を運行できるかどうかは、ますます怪しくなっている。

 「経営分離回避策」で出されたこの三者合意。佐賀県の古川知事は、「長崎本線を残して欲しい人の意見も、新幹線を造って欲しい人の意見も取り入れた案」としているが、果たしてそうだろうか。結局廃線になるようでは、「長崎本線を残して欲しい人」を裏切ることに等しい。

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